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チリツモ【中世ヨーロッパ情報館】

"chiritsumo” 管理人チリが、中世ヨーロッパにまつわる情報を紹介していきます。

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バシネット-多用途兜

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▲11世紀、ミラノのバシネット(19世紀のスケッチより)
 左図の下部に垂れているのがカマイル。

14世紀はじめ、騎士たちの間でバシネット(仏・バシネ)という新しい兜が使われるようになります。バシネットは円錐形の兜で、顔の部分が開けてあるという特徴をもっており、サーブレア(cervelliere)と呼ばれるより単純な構造の鉄兜から生まれました。バシネットは単体で使われることもありましたが、バシネットの上にグレート・ヘルムを被って使われることもありました。その際、最初の騎兵突撃の後の荒々しい白兵戦の間、呼吸と視界の邪魔になるため、グレートヘルムはしばしば捨てられたため、内側のより小回りの利くバシネットは重宝されました。また、首から肩にかけての兜と鎧の隙間を埋めるために、バシネットは下部の縁にカマイルという脱着可能な鎖垂れをつけることもありました。

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▲ドイツ式のバイザー付きバシネット(同上)
 
バシネットにおける大転換は、バイザーがつけられることによって、バシネット単体の防御力が格段に上がったことでした。14世紀中頃までには、ほとんどの騎士の兜が、グレート・ヘルムからバイザー付きのバシネットへと移行しています。バイザーは犬の鼻面ないし嘴のような形をしており、ハウンスカル(独・フンツグーゲル)と呼ばれていました。バイザーは視覚と通気性を犠牲に防御力を高めましたが、可動式のため上に動かすことでバシネット単体の時と同様の視界と通気性を確保でき、さらに取り外しも可能であったため、戦闘時以外にバイザーを外しておくこともできました。バイザーには視界確保のためのサイトの他に、鼻先部分に多くの孔が穿たれており通気性を確保していました。膨らんでいるバイザーの形状からに口の前に空間があったため、グレート・ヘルムよりも楽に呼吸ができたと考えられます。また、バイザーの代わりにT字や逆Y字型の鼻当てが付けられることもあったようです。
 
運用の簡便さと適度な防御を備えたバシネットは、百年戦争期を含む14世紀から15世紀にかけて騎士やメン・アット・アームズ(下馬騎士・重装歩兵)の代表的な兜として普及していきました。14世紀末には首周辺の防御のためにカマイルの代わりにガーガットと呼ばれる金属板でできた頸甲が用いられるようになり、バシネットはさらに強化されます。チェイン・メイルからプレート・アーマーへの移行期で、兜もまた鎧の一部として変化していったのです。15世紀中頃には、バイザーの鼻が丸いビコケ(イタリア語で「小さい城塞」の意)が登場しました。このように、バシネットはさらに多くの金属板を用い、打撃を受け流すために丸みを帯びる方向に進化していき、後の時代に広まるアーメットの原型となりました。
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