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チリツモ【中世ヨーロッパ情報館】

"chiritsumo” 管理人チリが、中世ヨーロッパにまつわる情報を紹介していきます。

スピア、パイク、ランス-中世の槍

槍という武器は古代から近世初期にかけてもっとも普及した武器でした。その理由としては製作・修理が簡単なこと、剣を扱うような訓練がいらないこと、そして安価だということが挙げられます。この槍という武器は、他の様々な形の武器と同じく時代や地域によってその特徴を変化させていきました。中世ヨーロッパで主に使われたのはスピア、パイク、そしてランスです。



スピアはこの中で最も一般的なもので、長さ2~3m、重さ1.5~3.5㎏ほどのものを指しますが、この値は細かく定めてあるわけではなく、後述するパイクより短い槍は基本的に全てスピアです。スピアの穂先は用途によって様々なものがあります。深く返しがついているものは刺さった槍を抜けにくくするために、木の葉型の穂先は傷を広げるために、反対に穂先が細く鋭いものはプレート・アーマーなどの頑丈な鎧も貫けるようにするために用いられました。

パイクは15世紀以降、中世後期から使われ始めました。この槍の特徴はとにかく長いことです。5~7m、重いものでは5㎏にも及ぶこの長大な槍は、集団行動をとる密集陣形の中で始めて効果を発揮しました。防御用のパイク兵の陣形では一人目が膝をついて、二人目が腰を落としながら槍を構え、さらに三人目と四人目はそれぞれ腰、肩の高さで槍を構え、戦場に槍衾を作り出しました。スイス傭兵やランツクネヒト(南ドイツ傭兵)の密集陣形の戦術は、すでに時代遅れと成っていた騎兵による突撃戦術の終わりを告げます。パイクは近世初期の戦争では主役を務めていましたが、小銃の改良や、銃剣の登場によって活躍の機会が減っていき、17世紀頃から徐々に見られなくなっていきました。

ランスは中世ヨーロッパを代表する槍です。騎槍と訳されるこの槍は、重装騎兵が突撃を行う際に用いられました。4~5mもの長さを持つこの槍は、刀剣とは比べ物にならないほど重かったため、不安定な馬上で扱うのには相当の訓練が必要でした。敵に向かって突撃している騎馬から突き下ろされるランスの威力は、その貫通力もさることながら敵兵にかなりの威圧感を与えたことでしょう。ランスは混戦に入るとその長さゆえに邪魔になったので、騎兵は普通、剣やメイスなどの武器も併せて装備していました。
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