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チリツモ【中世ヨーロッパ情報館】

"chiritsumo” 管理人チリが、中世ヨーロッパにまつわる情報を紹介していきます。

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粉挽き屋、あるいは水車小屋管理人


▲中世の風車

粉挽き人になりたいだって?止めておいたほうがいいと思うよ。なんていったって、粉挽きは村皆の憎まれ役なんだから。粉挽きは村から離れて、一人っきりで水車小屋を管理している。だから周囲の目のないところで農民から集めた小麦の目方をごまかしているに違いないと思われているのさ。

もっとも、領主のバナリテ(水車小屋、パン焼き竈など公共施設の使用強制)があるから、使用量を払って粉を挽いてもらうより、自宅の石臼を使いたいと思っている農民たちは、君が目方をごまかそうが、ごまかすまいが、粉引きの存在を憎々しく感じているんだけどね。


それでもいいと言うのなら、水車の管理権を委託してもらうために、まずは水車を所有する領主と契約を結ぶ必要がある。水車小屋を建て直したり、堰(水車の効率を高めるためにつくるんだ)を修繕したりする場合、ほとんどの費用を領主が払ってくれる。でも、粉を挽くための石臼やその運搬にかかる費用は、領主だけでなく粉挽きも負わなければならないよ。それから、水車や装置を動かす大小の歯車などは、粉引きが自前で修理、購入しなければいけないんだ。

人に憎まれて、なおかつ維持費のかかるだけの仕事なんて誰もやりたがらない。もちろん、この仕事には旨味がある。まず、粉挽きは村の共同体に属していないから、村長による下級裁判権の支配を受けない。農民たちの理不尽な訴えにも法的に悩まされることはないわけだ。

さらに、水車小屋の管理には水車用地の経営というおまけもついてくる。いや、おまけというには大きすぎるかな。この用地にはいくらかの耕作地や菜園、牧草地の他に、水車を回す河川の使用権も入っているんだ。粉挽きは川で魚を獲ることもできるのさ。領主権のひとつである河川利用権に守られた川で農民たちが釣りをしようものなら、たちまち罰金を課されてしまうのに比べ、すごい待遇だろ?


これだけの経済的優位にある粉引きは、当然ながら領主への貢納も大きい。でも、それを差し引いても粉挽きは農民たちとは比べられないほどに裕福だ。もし、君がそれほど野心家でなくて、出来るだけ人にも憎まれたくないのなら、都市の粉引き屋をお勧めするよ。都市内では当局の監視が厳しくて、粉挽きは下級役人のような位置づけになる。そもそも、穀物の売買や、家禽の飼育(穀物が飼料となる)が禁止されるから、たとえ目方をごまかしてもあまり利点はないんだ。

都市の粉挽きでは不満かい?まったく君は野心家なんだね。それならクレルヴォー修道院で水車小屋に空きがあると聞いたよ。受付係りの修道士ヨハネスを訪ねてみるといい。

フランス、シャンパーニュの修道院にて、1206年
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