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チリツモ【中世ヨーロッパ情報館】

"chiritsumo” 管理人チリが、中世ヨーロッパにまつわる情報を紹介していきます。

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中世ヨーロッパとヴィクトリア朝の身分一考


▲ヴィクトリア朝時代の男性

大学時代、サークル関係でふだん読まない時代の本を読んでいろいろ興味深かったのでご紹介します。『大英帝国‐最盛期イギリスの社会史‐』講談社新書。

本書は、主に19世紀、ヴィクトリア朝期のイギリス社会史について扱っていて、「世界の工場」として七つの海に君臨した大英帝国の光と影についてわかりやすくまとめてあります。大英帝国を知る入門書として、おすすめです。
 
社会史の概説は本書にお譲りして、ここでは中世ヨーロッパとの比較で気になった「身分」について紹介していきたいと思います。中世の身分が祈る人(聖職者)・戦う人(貴族)・働く人(農民)と大別されていたのに対し、19世紀イギリスの身分は上流階級・中流階級・労働者階級に大別されていました。

上流階級上流階級とは貴族やジェントリ、すなわち土地からの収益で生活する地主層のことを指します。彼らの起源は、中世の騎士・貴族や中近世に土地を獲得して地主化した商人たちであろうと思います。彼ら地主と中世の領主との決定的な違いは、地主はもはや小作人を人格的に支配していないということです。小作人たちの間で争いが起こったとき、地主はもはや彼らを裁く権利はないのです。中世の貴族が、小作人(農奴)に対して、流血裁判権をも含む人格的支配をしていたのとは対照的ですね。上流階級は総人口のほんの数パーセントしかいませんでしたが、彼らが政治の実権を握っていたエリートを構成していたのは、中世とそんなに変わらなかっただろうと思います。
 
中流階級とは、商業・工業・金融業などで財を成したブルジョワジーや医師・法曹・軍の士官などの専門職で構成されました。彼らの前身は、中世の成功した都市民や、名家の人々かと思われます。上流階級が、地代で食べていけるために「働かない人」であるとすれば、ブルジョワジーは「働く人」に分類されますが、彼らの労働は額に汗を流すようなものではなく、監督・経営という精神労働でした。19世紀前半に選挙権を得た上層中流階級は、国政へも参与するようになります。中流階級は、人口の2割程度を占めていたと考えられているようで、この時代にはかなり都市化が進んでいたことがわかります。
 
労働者階級は、肉体労働を日々の糧の対価として生活している人々で、工場労働者の他にも農業労働者、鉱山労働者などを含んでおり、人口のほとんどを占めていました。彼らは、劣悪な生活条件の中で必死に生きていました。中世との大きな隔たりといえば、段階的に、かつ女性は含まれていまでんでしたが、選挙権が徐々に拡大し、国政への参加が認められるようになっていったことでしょうか。また、中世の代表身分だった祈る人がなくなっていることは、宗教改革や科学の発展を経て宗教勢力が弱体化していたことを示していると思います。
 
このように、中世とヴィクトリア朝期の身分を比較してみると、いろいろ違いがあります。こんなところからも、歴史の流れが少し見えてくるような気がします。
 
参考:長島伸一『大英帝国‐最盛期イギリスの社会史‐』講談社(1989)

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