<目次>
はじめに フランス王とは誰か
最初のルイは誰か/ヴェルダン条約とメルセン条約/フランク王か、フランス王か
1 ユーグ・カペー(987年~996年)
強者ロベール/ロベール家の台頭とカロリング家の凋落/再び王位へ/無政府状態/伯の独立/冴えない始祖
2 名ばかりの王たち
ロベール1世(996年~1031年)/身から出た錆/アンリ1世(1031年~1060年)/フィリップ1世(1060年~1108年)/淫婦
3 肥満王ルイ6世(1108年~1137年)
不遇の王子/肥満王/足場を固める/家臣団の統制/左右の重臣/ターニング・ポイント
4 若王ルイ7世(1137年~1180年)
血気さかん/十字軍/離縁/揺さぶり/好機到来
5 尊厳王フィリップ2世(1180年~1223年)
月桂樹のイマージュ/初仕事/宿命の戦い/大荒れの私生活/征服王フィリップ/内政の充実/ブーヴィーヌの戦い/大国フランスの誕生
6 獅子王ルイ8世(1223年~1226年)
恵まれた貴公子/欲求不満の日々/獅子奮迅
7 聖王ルイ9世(1226年~1270年)
列聖された王/偉大なる母/美しき妻/聖王の十字軍/正義と平和の使者として/ひたすらに神のため
8 勇敢王ヒリップ3世(1270年~1285年)
名君の息子/寵臣政治/内政の進化/アラゴン遠征
9 美男王フィリップ4世(1285年~1314年)
謎めく美貌/法律顧問/唯我独尊/ローマ教皇との戦い/神殿騎士団事件/晩年に射した影
10 あいつぐ不幸
ルイ10世(1314年~1316年)/フィリップ5世(1316年~1322年)/シャルル4世(1322年~1328年)
おわりに 天下統一の物語
王たちのデータ/カペー朝の功績/カペー朝の限界
主要参考文献
本書は西洋歴史小説家の佐藤賢一さんが書いたノンフィクション作品です。小説家が書いているだけあって、一気に読破させてしまう面白さを備えています。特に王個人の置かれた状況を、単なる政治的、事件的な視点から見るだけではなく、王が在位した当時の年齢や王妃との関係、幼少期の生活条件などから、王の資質や統治理念を丁寧に描き出していて、時間的にも地理的にも距離を感じずにはいられないフランスの王たちに親近感が湧いてきます。
もちろん、王の性格や人柄など想像を逞しくして書かれている部分もあり、必ずしも学問的とは言い難いのかもしれませんが、それでも根拠のあるテキストの中から、そのように歴史を再構成している文章は、読んでいてとても心が躍ります。過去に起こった出来事を全て知ることができない以上、このような営みもまた歴史のひとつの表現の仕方なのかもしれません。
表題のとおり、本書は中世フランス王国で300年以上の長きにわたって王位を継承してきたカペー朝を描いた物語です。フランスの王朝というと革命期のブルボン朝などのほうが有名かもしれませんが、このブルボン朝や、その前のヴァロワ朝、スペインのブルボン朝は全てカペー朝の血筋を引いています。そういった意味で、カペー朝はフランス王国に影響を与え続けていたといえます。カペー朝がどのようにして、王位簒奪者の誹りを免れ、統治を正当化していったのかなどは、カペー朝全体を、見渡す長いスパンを一冊の新書にコンパクトにまとめた本書だからこそ、わかりやすく説明できるのではないかと思います。
初代ユーグ・カペーの時代。自身の狭小な王領地でさえも満足に統治できなかった「名ばかりの王」から、戦争や政略結婚を経てフランス王国の大部分を掌握し、さらに神聖ローマ皇帝や教皇に並ぶほどの権威を備え、ヨーロッパ一の強国の主となるに至るカペー朝の奇跡。特に世界史の教科書にも登場する、カペー朝のトップ・スリー、フィリップ2世、ルイ9世、フィリップ4世についても彼らの事績だけでなく、彼らの親の代に築かれてきたものがあったからこそ、彼らの活躍があったのだという歴史の連続性を感じさせられます。カロリング家の断絶に続くカペー朝の開始、そして終焉までの概要を理解したいと思っている方にはおすすめの本です。