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チリツモ【中世ヨーロッパ情報館】

"chiritsumo” 管理人チリが、中世ヨーロッパにまつわる情報を紹介していきます。

「アラブが見た十字軍」 アミン・マアルーフ



11世紀初頭、中東のアラブ人にとって十字軍は、聖戦でもなんでもない、フランク(中東からのヨーロッパ人の名称)の侵略に他なりませんでした。アラブにとって彼らは、不信心者であり、野蛮人であり、時には人食い人種でした。

この本は、アラブ人ジャーナリストが中東の年代記作家の記述を基にして、今まで西洋視点で考えられることの多かった十字軍を、アラブ視点で捉えようとした本です。初めは、アラブの語感に慣れないせいで、登場する長ったらしい名前に困惑しましたが、史料の引用や、ジャーナリストならではの読みやすい文体のおかげで、すぐに本に引き込まれました。

当時の中東世界は、大きくセルジューク朝トルコとファーティマ朝エジプトに分かれていましたが、これは名目上のことであり実際には中小の領主たちが跋扈する地方分権的社会でした。また、支配者層にはトルコ人やクルド人などの非アラブ人が多数を占めていました。そして、なんといっても、古代文化を吸収していたアラブは、ヨーロッパより格段に文明が発展していました。このような状況を知らずして、十字軍について語ることは出来ません。

訳者あとがきによると、日本での類書はみられないようですので、十字軍について学ぶ際にはおすすめの一冊です。

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