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チリツモ【中世ヨーロッパ情報館】

"chiritsumo” 管理人チリが、中世ヨーロッパにまつわる情報を紹介していきます。

小説フランス革命〈1〉革命のライオン




佐藤賢一『小説フランス革命〈1〉革命のライオン』集英社(2011)

『小説フランス革命』シリーズは、世界史の一大事件であるフランス革命を扱った佐藤賢一さんの長編小説です。文庫版第一巻では。1787年8月、ネッケルがフランス王国の財務長官に復職を果たしてから、1789年6月、全国三部会にて第三身分代表議員が国民議会の成立を宣言するまでのおよそ1年弱を描いています。

本書は、小説のかたちをとりつつも、随所に説明的な文章が織り込んであるため、フランス革命について詳しく知りたいと思う方への入門書になるかと思います。

印象的だった3点について紹介したいと思います。

1点目は、三部会を当時の人々はどう考えていたか、ということです。確認ですが、三部会とはそもそも、国王が貴族や聖職者などの特権身分に課税をしようとしたところ、特権身分から「三部会の承認がなければ課税に応じない」という主張を受けて開かれたものでした。そうして、聖職者、貴族、平民それぞれの代表議員を集めて、三部会が開かれることとなったのです。

民主主義国家に暮らす我々にとって、市民の中から代表者を選ぶというのは至極当然のことです。しかし、18世紀末の当時は、絶対王政の下に貴族や高位聖職者が免税特権を握り、平民は重い税を課せられるも発言権はありませんでした。そんな中、国王が三部会を開くという知らせは、多くの平民にとって「国王が我々平民の声も聞いて下さるんだ!」という期待を持って受け止められたようです。

革命直前のフランスで、小規模な一揆が頻発したのは、飢饉があった時期というものありますが、この「国王は平民の味方なんだ」という感覚に後押しされたものであったのかもしれません。

2点目は、三部会の代表議員の選出についてです。教科書や資料集からはいまいち読み取れない、こまかな制度についても本書で学ぶことができます。もちろん、この時代に普通選挙などはありません。第三身分の代表議員を選ぶ権利があったのは、選挙人と呼ばれる村や町の街区ごとに決められた名士たちでした。金持ちのブルジョワや豪農にしか選挙権はなかったわけですね。ミラボーが選出されたプロヴァンスの中心都市エクスの管区で総投票数が344票でしかないことを考えれば、当時の有権者の少なさが分かります。

しかし、このシステムでも、ブルジョワの利益だけを考えたものが議員になったかと言うとそうではありません。ミラボーの例がその代表でしょう。彼は、プロヴァンスで起きた民衆の騒乱を沈めたことで民衆の英雄になったばかりではく、その被害者になるはずだったブルジョワたちにも恩を売りました。もし、名士たちがミラボーを議員に選出しなければ、また暴動が起こるかもしれない。選挙権なき民衆は選挙人に、「もし自分たちの推薦する者が議員になれなかったら、その時は暴動が起きるかもしれないぞ」という無言の圧力をかけることで、政治に参加していたと言えるかもしれません。

3点目は、三部会における差別についてです。このことについて紹介する前に、三部会が議決方法をめぐって紛糾していたことを確認したいと思います。

問題になったのは、身分別議決法と個人別議決法、どちらを選択するかです。身分別議決は、身分内でひとつの議決を出すため、特権身分への課税は当然のことながら聖職者、貴族が反対するため2対1で否決になってしまいます。個人別議決にすれば、数の多い第三身分代表と特権身分から数名の合流があれば、貴族への課税を可決することができるというわけです。

三部会が議決方法をめぐって紛糾した。それだけ聞くとさも平等な話し合いが平行線をたどったかのように感じられますが、これが大きな勘違いなのです。貴族や高位聖職者は着飾って議場入りしたのに対し、第三身分、つまり平民は「相応しい服」として黒服を指定され、議場への入り口も特権身分とは異なりました。最初から差別されていたのです。

この差別の延長線上で「身分別の」議員資格の確認作業が行われようとしたところ、第三身分がこれに反発したことが決議方法についてのごたごたのはじまりでした。第三身分は、このままではなし崩し的に身分別の投票になってしまうということを恐れたのです。結局、第一身分の聖職者の一部が合流した国民議会の成立宣言まで、貴族と平民はろくに議論を戦わせることもなかったわけです。

この本の一番の魅力である登場人物たちの生き生きとした描写については、ぜひ本書を呼んで確認していただければと思います。

最後に第一巻の主な登場人物の肖像画を掲載します。年齢は1789年当時。


ミラボー伯爵オノレ・ガブリエル・リケティ
エクス・アン・プロヴァンス管区選出第三身分代表議員
41歳(1749年3月9日 - 1791年4月2日)


マクシミリアン・ドゥ・ロベスピエール
アルトワ管区選出第三身分代表議員
31歳(1758年5月6日 - 1794年7月28日)


ジャック・ネッケル
フランス王国財務長官、スイス人実業家
56歳(1732年9月30日 - 1804年4月9日)

 
カミーユ・デムーラン
弁護士、第三身分代表議員に立候補するも落選
29歳(1760年3月2日 - 1794年4月5日)
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