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チリツモ【中世ヨーロッパ情報館】

"chiritsumo” 管理人チリが、中世ヨーロッパにまつわる情報を紹介していきます。

「ヨーロッパとは何か」 増田四郎



ヨーロッパとは何か?単純でありながら難しいこの問に、ヨーロッパ世界の形成から答えを導き出そうとしたのがこの本です。主に扱っている年代は、ローマ帝国の末期から8、9世紀までのフランク王国時代までですが、ローマの帝政初期や12世紀ヨーロッパなどについても適宜触れています。

最初の二章では、現代の日本人やヨーロッパ人がヨーロッパの歴史を学ぶ意味について、またヨーロッパ人の歴史観の変遷についても記されています。続く章では、地理的に分けられるヨーロッパの特性について、さらに古代世界と中世世界という概念へと話は流れていきます。

“ギリシャやローマなどの古典古代の自由な市民社会、文化や芸術は高度なレベルに達している反面、中世では宗教的束縛や領主制の不自由がまかり通っている。我々の時代は古代の文化を復活させ、新しい人間中心の世界を創設するのだ。”これが16世紀に生きたルネサンスの人文主義者の主張でした。彼らにとって、中世とは克服すべき、野蛮な時代、まさに暗黒時代だったのです。

なぜ古典古代より時代の進んだ中世の方が未発達な世界になってしまったのか?あるいは、そもそも中世が古代に劣るというのは真実であろうか?これらの命題についての歴史家たちの論争を概観した上で、筆者は近代資本主義社会を築く土壌が中世に出来たものであるという見方を示し、中世にキリスト教、ゲルマン民族、ローマ帝国のエッセンスを取り入れて作り上げられた社会制度や心性などが、後のヨーロッパへと引き継がれていったのだとしています。

1967年に書かれた本であるため、東西冷戦やEECなど記述の内容には古いものもありますが、今読んでも充分に満足できる内容になっていると思います。特に、中世の中でも注目されにくい初期中世にスポットを当てている本として、ヨーロッパ世界の形成、フランク王国について知りたい方には特におすすめの本です。
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