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チリツモ【中世ヨーロッパ情報館】

"chiritsumo” 管理人チリが、中世ヨーロッパにまつわる情報を紹介していきます。

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佐藤賢一「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」

 

今回は、佐藤賢一氏による中世ヨーロッパを描いた短編「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」を紹介します。そもそも中世史を描いた短編というものはあまり多くはなく、そもそも珍しい作品なのですが、さらにこの作品が珍しいのは、著者の佐藤氏が描くことが多いフランス以外の地域を舞台とした短編が収録されている点です。フランスのもののほかに、スペインを題材にしたものが1話、イタリアを舞台にしたものが3話収録されています。

この中で特に面白いのが、「エッセ・エス」と「技師」です。「エッセ・エス」は統一間近のカスティリャ王国とアラゴン王国の間で大冒険をしたある騎士の回想録というかたちをとっています。古い習慣を重んじる、わかりやすく堅物な騎士が、自分の使える王女イザベルのために、自由奔放な王子に悩まされながらも旅をするというのが本筋なのですが、この王子と王女が婚姻関係を結んだことにより、統一スペインが形成されていくことになるのです。文中にはマキャベリやグーテンベルク、ドンキホーテなども登場し、まさに時代が中世から近世へ移り変わる様が、小気味よく感じられます。

「技師」は、築城術を学んだ技師が、故郷の都市防衛のために大工事をするという話です。なによりも、築城家という特殊な職業を扱っているのが面白いです。「エッセ・エス」と同様に、この作品もヨーロッパの時代の転換を示しており、大砲の発達によって築城技術に大転換が訪れていたことを背景にしています。フィレンツエェやミラノのような大都市国家に比べ描かれることの少ない弱小都市国家の人々が、大国フランスへの恐怖を感じつつも戦う様は、新しい視点を提供してくれると思います。
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