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チリツモ【中世ヨーロッパ情報館】

"chiritsumo” 管理人チリが、中世ヨーロッパにまつわる情報を紹介していきます。

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「ロビン・フッド物語」 上野 美子




ロビン・フッドの物語といえば、日本でも知らない人はいないくらいに有名です。緑色の服を着た長弓の名手で、リトル・ジョン、坊主のタック、ヒロインのマリアンなどの仲間たちとともに、シャーウッドの森で活躍するロビン・フッドの姿は、現在でも児童文学という形で生き続けています。強気を挫き、弱きを助ける彼は義賊の代名詞ともなり、後の世でも「どこどこのロビン・フッド」という言葉が使われています。

ロビン・フッドの物語は中世の時代、文字化されていない伝承=バラッドの形で生まれました。バラッドは普通、写本に書かれることなく口伝えで次代に受け継がれていくものですが、ロビン・フッドのバラッドは例外的に16世紀初頭の写本に記されていました。「ロビン・フッドの武勲」というこのバラッドは、数あるロビン・フッドの伝承を集大成したもので、その長さから伝承として自然に生まれてきたのではなく、吟遊詩人によっていくつかあったロビン・フッドの物語を集大成して作られたものだと思われています。この武勲の物語の他にも、中世にはロビンのライバルであるギズバンのガイが登場する話など、いくつかの伝承が写本の形で残されています。

気になるのは、ロビン・フッドは実在の人物かということです。ロビンに似た名前のアウトローを年代記から引っ張り出してきて、これがロビンのモデルだという研究者もいるようですが、ロビンの実存を確かめるのにはあまり意味がなく、あったとしてもそれはほとんど不可能だという学者もいます。そもそも、伝承とはいくらモデルがあったとしても語り伝えられるうちに、虚実ない交ぜになっていき、最終的には伝説といえるものまでになるものであって、私たちが想像するロビン・フッドはやはり伝承から創造された人物と考えるべきでしょう。

しかし、中世の森に義賊として名を馳せた者がいなかったわけではありません。ウェイクのヘレワードという人物は、サクソン人としてウィリアム征服王らノルマン人と戦い、英雄視されました。彼は、大修道院から金を奪ったり、変装して敵に近づいたりと、ロビン・フッドと共通する点が多くあります。この他にも、中世には多くのアウトロー・ヒーローがいて、彼らの存在が後に改変され、美化されて義賊の伝説となっていったのです。これらの伝承から強い影響を受けて、ロビン・フッドは誕生しました。

本書には中世に生まれたロビン・フッドが、ルネサンス、市民革命時代、ヴィクトリア時代、そして大戦後へと伝わっていく中でどのような変遷を遂げていったのかを記してあります。日本に伝わっているロビン・フッドの物語は、近世に成立したものが入ってきたようです。ロビン・フッドというひとつの伝承を通じて、イギリスの心性を探ってみるのにもいい本だと思います。
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「アラブが見た十字軍」 アミン・マアルーフ



11世紀初頭、中東のアラブ人にとって十字軍は、聖戦でもなんでもない、フランク(中東からのヨーロッパ人の名称)の侵略に他なりませんでした。アラブにとって彼らは、不信心者であり、野蛮人であり、時には人食い人種でした。

この本は、アラブ人ジャーナリストが中東の年代記作家の記述を基にして、今まで西洋視点で考えられることの多かった十字軍を、アラブ視点で捉えようとした本です。初めは、アラブの語感に慣れないせいで、登場する長ったらしい名前に困惑しましたが、史料の引用や、ジャーナリストならではの読みやすい文体のおかげで、すぐに本に引き込まれました。

当時の中東世界は、大きくセルジューク朝トルコとファーティマ朝エジプトに分かれていましたが、これは名目上のことであり実際には中小の領主たちが跋扈する地方分権的社会でした。また、支配者層にはトルコ人やクルド人などの非アラブ人が多数を占めていました。そして、なんといっても、古代文化を吸収していたアラブは、ヨーロッパより格段に文明が発展していました。このような状況を知らずして、十字軍について語ることは出来ません。

訳者あとがきによると、日本での類書はみられないようですので、十字軍について学ぶ際にはおすすめの一冊です。


Mount&Blade





今回は初めてPCソフトの紹介です。名前の通りの、騎乗を主体としたアクションと、傭兵隊を率いて戦うというシミュレーションが混ざったようなゲームです。邦題にするとしたら、「サッカーチームをつくろう」ならぬ「傭兵隊をつくろう」で、略して「ようつく」といったところでしょうか。プレイヤーは傭兵隊長として、中世ヨーロッパをモデルに組まれた世界の中で冒険をするのです。

古代帝国が世界を支配していたり、沿岸部にはヴァイキングが建てた国があったり、ステップには汗国があるなどヨーロッパをそのまま縮小したような大陸がゲームの舞台となります。大盾と石弓を装備した兵が主体の北イタリアのような国もあれば、射手の強いイングランドのような国、さらには騎士主体のドイツ・フランスのような国などプレイヤーが仕官し、また戦うことにもなる国は様々です。

都市や村で買い物をするシステムは多くありますが、このゲームでは物資・家畜の略奪、焼き討ち、包囲攻撃までしかけられるのが特徴です。CPUプレイヤーも独自の軍隊を持っていて、数十から数百の兵士の衝突というのは、まさに中世らしい規模です。CPUプレイヤーの中には、王国に仕える領主もいれば山賊や追い剥ぎもいます。

また、ゲームバランスのためか史実に即したのかはわかりませんが、貨幣システムがなかなかリアルかなとも思いました。例えば、ひとりの騎士の給金で、村で徴兵したばかりの新兵を40人養えたり、頑丈なメイル・アーマーの価格が牛数十頭分だったりするようなところです。

また、国に仕官した後には遠征の度に最低数騎かを率いての従軍が求められます。戦いでは敵の武器防具、馬、荷物などを奪取できますし、捕虜をとることもできます。普通の捕虜は身代金仲介人(中世に実際にいた!)に引き渡して金を稼ぐこともできますし、幸運にも貴族を捕虜にすればひと財産が身代金として手に入ります。

中世の騎士たちの戦いを、身近に愉しむことのできるゲームとして紹介しました。

MB01.jpeg
騎士の国:スワディア王国(下記wikiより)

MB02.jpeg
雪原の国:ベージャー王国(同上)

海外のソフトウェアなので販売方法など詳しいことwikiを参照して下さい。
http://www5.atwiki.jp/mountandblade/pages/1.html

「聖女の遺骨求む―修道士カドフェルシリーズ1」 エリス・ピーターズ




舞台は12世紀、イングランド。元十字軍戦士のカドフェルは、いまや老年に達し、修道院で自慢の庭園を管理することに日々の喜びを見出していたが、ある日、ウェールズの聖女の遺骨を引き取る遠征隊に加わることになった。そこで彼ら一行を待ち受けていたのは…

ミステリー小説ですので話の中身にはあまり触れないようにしますが、この小説は主人公のカドフェルを中心に、仲間の修道士たちや、在地の村人たちを主な登場人物として、村で起きた殺人事件を軸にして語られます。

この本の特徴のひとつは、描写の対象に王侯貴族や兵士ではなく、地主や自由農民、それに農奴たちといった社会の末端部分に生きる人々を多く含んでいる点です。騎士や軍人を主役とした小説は多いですが、この小説はそれらとは一味違ったものになっています。

また、推理小説的な展開に、巧妙に中世の人々の、迷信や信仰、身分関係などを織り込むことで、現代推理小説にはない面白みもあります。テンポがよい痛快活劇というわけではありませんが、中世好きならぐいぐいと話に引き込まれていくこと請け合いの一冊です。


「白衣の騎士団」 コナン・ドイル



数日前、近所の図書館で借りたものを読了しましたので紹介など。時代は百年戦争前期、主要登場人物は、イングランド南部の修道院出身の従騎士アレイン、同修道院を追放された問題児ジョン、古強者の射手エイルワード、そしてアレインの主人のサー・ナイジェルの4人です。この物語は彼ら4人が、時には荒っぽく時には紳士的に冒険を繰り広げる痛快活劇です。彼らがイングランドを旅立つときからスペインでの会戦、ナヘラの戦いの直前までがこの話の筋になっています。

この本を読んでいると、佐藤賢一さんの「双頭の鷲」を思い出します。こっちではチャンドスや黒太子エドワードを、またベルトラン・デュ・ゲクランやティファーヌ・ラグネルなどをイングランド陣営から見ることになります。両方の本を読むと、話の裏側で何が起こっているのか想像しながら楽しく読むことができると思います。

原著に忠実なのか、名前を何度もフルネームで書いていたり、台詞もまどろっこしいものがありますが、それも見方によっては古典(実際100年前の著作ですが)を読んでいるようで、中世っぽい感じに浸れるかもしれません。騎士道などからり美しく描かれていますので、軽く中世の本でも読みたいと思った方にピッタリの作品だと思います。姉妹本としてサー・ナイジェルの若かりし頃を描いた「ナイジェル卿の冒険」があるので、いずれ読んでみたいと思っています。

今回もttufさんのご紹介の本でした。素敵な本を教えてくださりありがとうございます!

「大聖堂」ケン・フォレット


長い、長いですこの本は。しかし読み応えたっぷりで飽きがきません。それは、きっと登場人物たちが二転三転する状況の中で、みな必死に生きているのが感じられるからだと思います。話のすじは、修道院の新しい大聖堂を建てようとする修道院長フィリップ、建築家トムとその家族と、建設を妨害しようとする司教ウォールランや伯爵ハムレイとの対立が中心となっています。そのほかにも元アウトローの親子やハムレイに伯爵領を乗っ取られ復讐を誓う姉弟など、さまざまな立場の人々が大聖堂を中心にして関わります。

時代は12世紀初頭、スティーヴン王の御世、イングランドでは内乱が勃発していました。内乱中、ということは、ただでさえ弱かった警察力がほとんどなくなってしまうことを意味します。これに乗じて、伯爵ハムレイはやりたい放題です。こんな不条理に対し、武力をもたない修道院には成す術もありません。こういったところは、フェーデが蔓延った中世の姿の、厳しい一面をうまく描いていました。読んでいるとハムレイがどんどん憎くなっていきます。どんどん話の中に引きずられていきます。

名前が「大聖堂」ですので、かなり大聖堂の構造について詳しく書いてあります。しかし、ビジュアルで見るのとは違うので中々想像し辛いものがあります。大聖堂について、いくらか知識があるとより楽しめます。特に、建築様式の変化などにも触れていますので、そこでちょっとした感動があるんじゃないかと。ちなみに私にはわかりませんでしたが…。今度勉強してもう一度読み直したいですね。

ttyfさん、この本を紹介して下さりありがとうございました!



なんかまた小説が読みたくなってきました。「修道士カドフェル」シリーズというのがあるらしいですが…それを読んでみようかなと考え中。それより記事をこうs(ry


「ドゥームズデイ・ブック」コニー・ウィリス



またかよ、言わないでください。この本はちょっと普通の歴史小説とは違います。タイムスリップものですね。ストーリーですが…今から50年後の未来から14世紀へ中世史科の女学生キヴリンがタイムスリップ、彼女をめぐる中世の物語、そして送り出したすぐ後、伝染病が突如広まって技師が倒れてしまったため、老教授が彼女を救うために奮闘します。未来と過去、舞台には700年の時の隔たりがあるのです。

で、話の流れを追うのがこの記事の目的ではないので、とりあえずよかった点などを書きます。本全体が14世紀、21世紀、キヴリンのレポートと3つに別れ、それが交互になっているので話にメリハリがついています。また、未来人の視点から中世人がどれだけ、臭く、汚く、病気に対して無知であったかというようなことが書いてあります。緊張感の途切れない作品でずいぶん早く読みきってしまいました。

ユーモアたっぷりの言い回しや魅力的な登場人物などいい点は他にもありますが、やはり一番は中世人の描写です。こんなふうに、彼らは生きていたのかなぁ、と想像できてわくわくしました。中世の人々の死亡率は現代に比べ格段に高いものでした。それでも、彼らは毎日を精一杯生きていた。そんなことが感じられる小説です。

「ボヘミア物語」三浦伸昭




ルターが始めた宗教改革によって生まれたプロテスタント、彼らとカトリックとの対立をきっかけに起こった30年戦争はヨーロッパ世界に大きな変化をもたらしていきます。この戦争ではプロテスタント諸侯と神聖ローマ帝国皇帝とが争ったわけですが、この100年前、同じように宗教問題を発端に、神聖ローマ帝国に楯突いた人々がいました。彼らは指導者ヤン・フスの名をとってフス派と呼ばれました。彼らの新思想や何年にもわたる戦争を舞台にしたのが「ボヘミア物語」です。

なかなかマイナーな場所が舞台です。以前紹介したワラキアほどではないにせよ、日本人にはあまり馴染みがないのではないでしょうか。高校世界史では「フス=火刑」くらいしか覚えさせられないはずです。

で、中身ですが…。面白いです(爆)なんというか、ぐんぐん読みたくなる感じです。それからフス派のハンドガンと荷車を利用した特殊な戦術は、なかなか興味深いもので、戦闘シーンなどはワクワクします。

…しかし。素人の私が言うのもなんですが、ちょっとばかし時代考証が甘いような気がします。なんかプラハが世界の中心のように描かれていますし、やたらと教皇権の強さが強調されているような気がします。また、社会主義や銃の威力など、ちょっとばかし、いきすぎな表現があるようにも思ってしまいました。こうゆうところがあんまり気にならない人にはおすすめできる本です。

「傭兵ピエール」佐藤賢一

今週の土日は謎のARDF大会です。忙しい忙しい…ということで商品紹介で間を稼ぎ…。





ジャンヌ・ダルク。西洋史を知らない人でもまずは聞いたことがあるであろう有名な救国の英雄。彼女と共に戦った一人の傭兵隊長ピエールを中心にこの話は展開されます。百年戦争後半戦、政争の末の暗殺とそれに対する報復で内戦状態に突入していたフランスにイングランド軍が侵攻し、ロアール以北はすでにアングロ・ブールギニョン同盟(イングランドと内戦中のブルゴーニュ派の同盟)傘下に入り、王太子シャルルを擁護するアルマニャック派は都パリを追われていた、そんな時代です。

筋はもういたって普通にジャンヌの快進撃から始まり処刑へと流れていきます。ここはあまりにも有名なので省略。で、この本の見所ですが…やはり佐藤さんの描き出す魅力的なキャラクターたちです。頼りになる傭兵隊長ピエール、我侭な隊長代理ジャン、守銭奴の会計人トマ、聖女の輝きと愛らしさを併せ持ったジャンヌ、彼らに導かれてどんどん続きが読みたくなっていきます。

傭兵隊長からの視点なので、なかなか都市や戦場での生活はなかなか臨場感溢れるものです。最後には驚きの展開があったりと、まさに痛快な小説です。ちなみに私はこの本を読んで中世史をちゃんと勉強し始めました。同著者の「双頭の鷲」とあわせて百年戦争の前半と後半とを小説として楽しめるものになっています。

「冬のライオン」 アンソニー・ハーベイ 監督

ネットが復旧!万歳!歴史映画観ましたのでそのことなど…






12世紀、イングランド。時の王ヘンリー2世は悩んでいました。彼の広大な領地(イングランドとフランス西半分)を3人の息子の誰に継承させるか。彼は結論を出すために、シノン城へ当事者たちを呼びつけます。獅子心王の名で知られるリチャード、ジェフリー、そして末っ子ジョン、妻で大領主を持参金として持ってきたエレノア、フランス王フィリップです。彼らがもう、謀る謀る謀る。すさまじい権力闘争、身内のいがみ合いです。

当時の権力闘争や王族の関係など、なかなか面白いものを見せてくれました。ただ、今の歴史スペクタクルなんかを見た後だと、やっぱり華がないですねえ。まぁ、これはこれで、という感じです。

        
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